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異性への恋心を大切にして生きてきた昭和の時代を振り返ってみましょう。

思い出される昭和のあの日あの頃

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小説・おにあざみ。其の一

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赤紙徴用された父の柳川新作が、戦争も末期に近い昭和19年の秋、
南方戦線で戦死した広報を受けると、母の静代は途方に暮れてしまった。
先妻の遺児忠雄(19)と実子の武雄(12)勝子(10)の三人を連れて、疎開先の群馬の山村から、
戦前住んでいた横浜へ引き上げて来たのは、終戦の年12月の初旬だった。

「いくら住み慣れた土地が良いと言っても、焼け野原となってしまった処へ行って、どうする気や?
 もっと世の中が落ち着くまで田舎に居たら良いだに、何は無くとも、おまんまだけは食えるんだからよぅ」
疎開先である新作の従兄や村人の親切には感謝しながらも、残り少なになった蓄えと、
早くも物価の高騰に現れたインフレの兆しが、静代の心を落ち着けなくさせていた。

農山村の労働に経験も自信も無い静代は、矢張り住み慣れた都会生活に当ての無い希望を
繋ぐより他ならなかった。殺人的な混雑の中を必死の思いで辿り着いた静代と子供達は、
横浜駅を越して車窓に映る三菱造船所の荒廃の様に、行く先の苦難が身に浸みて思われた。

亡夫とのつつましい生活の中で、やっと昭和16年に自力で新築した鎌倉街道沿いの家は、
疎開の際依頼しておいた管理者の行方も判らず、焼跡もそのままになっていた。
知人縁者の行先も知れず、何処と云って寄る辺もなくなっておれば、村人達の言葉通り、
静代達にとっては必ずしも住み慣れた元の横浜ではなかった。

それでも追い詰められて死物狂いになった四人の母子は、僅か10歳の勝子までが焼跡から拾い集めて来た
トタン、板切れなどで補い、二日の徹夜作業で、一応雨露をしのげる小屋を作り上げてしまった。

見渡す限りの焼け野原に、ポッンポッンと疎らに同様な小屋掛けを見出せる程度の寂しさを通り越して、
凄いばかりの風景の中で、兎に角にも母子四人が寄り合って世帯を構えた時、静代はもうはっきりと、
涙が決して生活の糧に成らない事を悟っていた。

田舎者には珍しく、社会情勢の推移に正確な見透しを持っていた亡夫の従兄から、
引揚げの際に聞かされた話の糸を辿ると、静代は忠雄を伴って、
焼跡から非鉄金属其の他金目に成りそうだと思われる物を手当たり次第に拾い集めた。

切り詰めると、後一年はどうにか食いつなげる程度の額だったが、この貯金が大方無くなる迄、
彼女は女らしくひた向きにこの事に没頭した。

 
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焦土と化した横浜一円を歩き回り、目ぼしいものを漁り尽くすと、防空壕の跡やら、
家の周辺に偽装などして隠蔽すると、早速、市郊外の農村を駆け廻り、その頃流行の
食糧の闇ブローカーに転じて稼いだ。

かくして静代は、見栄も外聞も捨て、否、女であることすら忘れ切った。
三年間、危険と善悪の判断にさえ目を瞑って、馬車馬の様に働いた。

従兄の予測は的中して、逸早く彼女達が拾い集めて置いた非鉄金属類が暴騰し始めた。
頃合いを見計らって順次金に替えると思い掛けない金額に達した。
だがもう見栄と云うものを捨て切った静代は、附近周辺に立ち並び始めたどの家に比べても
まことにみすぼらしい乞食小屋の様な住居に、甘んじて、その改修に金を掛けようとはしなかった。

相変わらず四畳半位の一間で食事をし、夜は勝子と武雄を中央に、四人が一つになって寝るのであった。
冬季の寒い時にも四人は抱き合って、衣類は上に掛け、剝き出した素肌を触れ合う保温の方法が、
言うとは無く彼女ら四人の習慣となっていた。

都会育ちの静代は、元来、病弱とは云えないまでも、決して頑健な身体ではなかった。
だが三年間の血の滲む様な苦闘の中で、心身ともに見違えるようにがっちりと変わり、
別人の様に逞しくなっていた。一応眉に火のつく様な窮状を切り抜け、生活の自信と心のゆとりが
出来ると明けて39歳の静代は、時折、不意に火を噴く様な激しさで頭にカッと血が上り、
眼も眩む様な衝撃にのた打つ思いをすることがあった。

身に纏う影の様に、追い迫る不安に怯え、ぎりぎり一杯に生きて来た彼女はすっかり男に成り切った積りだった。
月に一回、それだけが彼女が女であった過去の記憶を呼び覚すかの様に、而も余りにも規則正しく循環して来る
生理現象の度に何か奇異な思いさえする程に成って居た静代。特別旺盛な方ではなかったが、
彼女も人並みな性の歓びも知っていたし、夫が徴兵されてからの半年、一年、眠れぬ幾夜を過ごした揚句、
幻覚的な手淫の快感に陶酔したこともある彼女ではあった。

余りにも切羽詰まった慌ただしい生活の中で、既に感覚の記憶さえぼやけて了い、
はっきり絶縁出来ている筈の欲情が、不当な鬱屈から蹴り起ち、その突破口を求めて猛然と体内を駈け巡ると、
彼女は血の出る程頭を掻き毟って、狂わんばかりに思い乱れるのであった。

静代は静岡県のS市の平和な家庭に、小学校長を父として育った。
豊かとは言えない迄ものびやかな生活の中で一人の兄と共に肉親の愛情に包まれた、
平凡ではあるが先ず恵まれた環境だった。
只、父が教育者と言う事で、子供の躾と言う点では可也厳しかった。
“温順”“貞淑”“廉潔”“克己”これが物心がついてから嫁ぐ迄、彼女が耳にたこが出来るほど
やかましく云い聞かされた。“女の道”であった。

嫁しては夫に従うと云う婦尊を尊守し過ぎた結果。“何事も貴方任せ”の習慣が何時しか性格的なものに成って居た。
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もたれ切りにしていた夫と言う支柱が無くなると、自主性を失っていた彼女はどうしょうも無い混迷に陥った。
若し静代に子供と云う者が居なかったら、恐らく夫の新作戦死の公報を手にした途端、
何の躊躇う事無くあっさり浮世に未練を絶ったに違いない。

夫には死別するし、世相が一変して“温順”“廉潔”では生きて行けない事を悟ると、
静代は亡夫の面影を懐かしく偲びつつ追い詰められた者の強さで起ち上がった。
だが“貞節と克己”を放棄していなかった彼女は、たやすく肉体の煩悩を解く事が出来なかった。

知らないのではない。これ程痛切な肉体の欲求を経験した事こそ無いが、
それが一寸した心の持ち方を変えるだけで、他愛も無く氷解出来る事が解って居るからこそ、
寧ろ悩みが深かったとも云える。

是だけは懐かしい父の訓えとも繋がっていたし、せめてもの世間に対する見栄からでも、
“貞潔”の誇りだけは捨てたくなかった。この相矛盾して合致することのない問題の解決は、
当然内向的な方法にその妥協点を見出す以外には無かった。
もう霞んで了った記憶の頁を手繰っては、夫との交合の場面を彼是と思い起し、
儚い幻覚を追って、手淫の快を貪る様になった。

いわゆる木の芽立ちの季節から梅雨明け迄、静代はどんよりと頭が重く、
苛々と腹立たしい日が二、三ヶ月も続いて、本格的な夏に入った。
低いトタン屋根の、窓の少ない箱の様なその家は、日中の暑さは勿論、
夜も十二時を過ぎても寝付けない日が多かった。

其の日、日暮れ近く雷鳴を伴った夕立が、僅かに大地を湿らせた丈で去って了うと、
むっとする様な熱気が反射熱を含んで匂い、そよとも揺るがぬ侭、夜に入った。

嵩張った家具類は無くとも、一間切りの四畳半に蚊帳を吊ると、四人の肌が
触れ合わずには寝られない。その一両日後が月経の予定日に成っていた静代は、
横になったが眠れなかった。昂り詰めた様な頭の中で、汐騒も高く血が狂い出すと、
そっと起き上がり、簡単服を引っ掛けて戸外へ出た。

大岡川一帯の焼跡には、進駐軍のカマボコ兵舎が立ち並び、一般の治安もかなり回復したと云われ、
人家も相当立ち並びだしてから、寧ろ物騒な事件が多くなって成って居た。
特に其の年の春頃から、強姦、猥褻行為に関した事件が目立って増した。
大岡川から分かれた掘割川沿いの広い工場などの焼け跡がまだ其の侭に成って居たりして、
夜ばかりでなく、昼間でも犯罪に格好な場所が多い為だった。

屋外に居ても、暑さに大した変わりはなかったが、静代は何か思い切った様な足取りで、
大岡川寄りの道路から広い焼跡を斜めに進んで行った。
  1. 近親者との性行為
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アヤメ草

Author:アヤメ草
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アヤメ草(万屋太郎)です。
演歌の作詞や官能小説書きを趣味とする、
今年72歳に成る“色ボケ爺さん”です。
何時も私のブログを見て頂き
有難う御座います。

私の別ブログ
“詩(うた)と小説で描く「愛の世界」”
も開設から八年目に入り、
多くの作品を公開してまいりました。
此処にはその中から選んだ
昭和時代の懐かしい「あの日あの頃」
の作品をまとめて見ました。

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